インボイスの罪
2023年10月1日、遂にインボイスがスタートしました。多くの反対意見をまともに聞こうともせず、海外視察だエッフェル塔だと浮かれている姿を見聞きすると腹立たしさを覚えます。
私は、インボイスの影響をもろに受ける零細事業主ですから、ずっと前から反対でした。マスコミはずっと知らん顔で来ていたように思いますが、その辺は新聞が軽減税率の恩恵をたっぷり受けているからの忖度でしょうか。さすがに制度スタート直前になって多少取り上げるようにはなりましたが、時既に遅しですね。
著名な実業家や弁護士先生の中には賛成の立場で、反対する者をばかにするようなことも見聞きしますが、国からいろんな補助金を頂いているから忖度しているのか、あるいは根本的な実態を理解していていない(しようとしていない?)のか、その辺はよく分かりませんが、残念でなりません。国のお偉い役人さんたちもそうでしょうが、机上でいろいろ計算していることと現場で何が起こっていることのギャップが分からないんでしょう。
その辺の溝をしっかり埋めるのが地方議会だと思うのですが、全商連の調査によると、1788自治体のうち、インボイスの中止・延期を求める意見書が議会に提案されたのは657(36.7%)で、可決されたのは145(8.1%)ということです。1つずつ、どんな議論が交わされたのか見たいところですが、さすがにそれは無理ですね。それにしても少ない。中小事業者しかいないような地方も多いのに、「おいおい大丈夫か? 地方議会」と思ってしまうのは私だけでしょうか。
インボイスについては、そもそも消費税についての現場の実態が把握できていないのだと思います。例えば、消費税納入企業は、何か物をつくるときに、部品などを下請の会社に発注します。下請はほとんどが中小事業者です。大企業から発注してもらうことは中小事業者にとっては大きな意味があります。映画「七つの会議」で描かれたような下請の熾烈な競争の世界がそこにはあります。
消費税が10%に上がったとき、中小事業者の中で、発注元の企業に「消費税が上がったので、その分、受注金額も上げさせていただきます」と言えるところがどれほどあったか。仮に勇気を持ってそう言えたところで、競合他社が「うちは消費税分はなしのままで」と言えば、仕事は簡単に取られてしまいます。かくして、泣く泣く「消費税分はいただきません」ということでやってきたのがほとんどの中小事業者でしょう。
だからこそ、1000万円以下の中小事業者には消費税の納税はしなくていいよと、言葉は適切ではないでしょうが、温情のあるような制度が設けられていたのだと思います。つまり、その末端の現場では「益税」なんて発生する余地がないんですよね。逆に、消費税が上がるたびに、実質的にはその分の単価ダウンを求められてきているのではないでしょうか。
消費税というそもそものシステム、そしてインボイス、ともに10%なら10%分が企業間(元請、下請、孫請等)や消費者の間で機械的に完全に統一されているのならいいですが、現場はそうではないわけで、いわゆる消費税の価格転嫁が机上で計算するような形できれいに行われてはいません。そこが問題なわけで、それを無視してさらに中小事業者が苦しい立場に追い込まれるような制度を、なぜこんな物価高騰で大変なときにやるのかということです。
法律で前から決まっているからだと言われるかもしれませんが、そういうことを実態に合わせて柔軟に対応していくのが政治というものじゃないんでしょうか。海外に行っている暇があるなら、もう少し現場を歩いてもらいたいものです。