耳ざわり
今回は「耳ざわり」という言葉についてです。少し年配の方は、何が言いたいか、もうお分かりですよね。
本来「耳ざわり」は「耳障り」と書いて、「聞いて、不愉快に感じたり、うるさく思う様子(新明解国語辞典)」という意味です。「あいつの歌は耳障りだ」とか「耳障りな工事の音がする」とか、まあ使い方はいろいろですが、とにかく「不快」という意味で使われていました。
それが、いつごろか「耳ざわりがよい」という言葉も使われるようになりました。「手触り」などと同じような形で、「耳障り」ではなく「耳触り」という表現が使われ出したんですね。私は物凄く抵抗があって「耳障りにはよいものなんてないだろう」と思っていたし、現にあの「広辞苑」でも第6版までは「耳障り」しか認めていませんでしたが、最新の第7版では遂に「耳触り」も認められるようになって、どんどん「耳触り」が広がってきているような感じがします。全面改訂が行われた日本速記協会発行のいわゆる「用字例」の最新版でも、「耳触り」と「耳障り」が並んで正式な見出し語として出されました。
……と、ここまで「耳触り」について、さも最近になって誤用が広まっているかのように述べてきましたが、文化庁のホームページでは、大正5年の宮本百合子さんの小説「貧しき人々の群」の中で「あのいつでもその耳触りの好い声を出して,スベスベした着物を着て,多勢の者にチヤホヤ云われている者共ではないか?」というような使われ方がされていると紹介されています。ということは、使用頻度や各人の感覚差は一定あるものの、用法としてはかなり昔からあったということですね。
ということで、会議録でも両方使い分けないといけなくなったわけですが、気をつけなきゃと思うのは、「耳障り」は悪い意味でしか使いませんが、「耳触り」はいい意味でも悪い意味でも使うということです。したがって、広辞苑(第6版)の言うように「耳障りがよい」はやはり誤用で、「耳ざわりがよい」と言うときは「耳触り」でなければならないということです。もちろん「耳触りが悪い」という表現もありですね。ちょっとややこしい感じがしますので、気をつけなきゃねと思います。
キー入力時の打ち分けは、そうですね、私なら「耳障り」は「みみざわり」、「耳触り」は「みみさわり」あたりでしょうか。もちろん「みざり」、「みさり」という省略法もありですね。