上善如水
人間もある程度やっていると、時々「座右の銘は」などという質問を受けるときがあります。そのときは、私はいつもこの言葉を御紹介しています。
お酒の名前じゃありませんよ。老子の言葉です。最初にこの言葉に出会ったのは、もうウン十年前、いつごろだったか……というような感じですが、今も大好きで、大切にしている言葉です。
ただし、好きだからそのとおり実践できているかというと、それは全く別のお話で。それこそ、同じ名前のお酒を飲むぐらいしかできませんが、軽くご紹介しておきたいと思います。
原典は漢文ですので、普通は「ジョウゼンハミズノゴトシ」などと読まれます。「上善」とは「ベスト」、「如水」は「水のように」という意味です。「如水」のほうは黒田官兵衛も号として用いていますので、なじみがあるかもしれませんね。
要は、「一番すばらしい生き方は、水のように生きることだ」というような意味になります。水のような生き方って何だということですが、水には大きく3つの特長がありますね。
1つ目は、柔軟だということです。水はどんな形の器にも収まります。丸でも四角でも三角でも、どんなものにも柔軟に対応できます。
2つ目は、常に低いところにその身を置こうとするということです。人工的にポンプアップをすれば別ですが、普通は高いところから低いところに向かって流れます。自分の身を常に下へ下へと向かわせる謙虚さがあるということですね。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」などにも通じるものですね。
3つ目は、時として物凄いパワーを発揮するということです。力を集中すれば岩をも砕きますし、思い出したくはないですが、津波や洪水などでは恐ろしいほどの破壊力を持っています。
ということで、ふだんは、柔軟な考え方で、常に謙虚で、そのバックには強大な力を秘めている、そんな生き方ができればいいなと思います。老子にはすばらしい言葉がたくさんありますが、その中でも一番好きな言葉がこの「上善如水」です。