「発言取消」を考える(1)
足立区議会で、性的マイノリティーの人たちを傷つける発言をしたとして問題となった議員の発言が、2020年10月20日の本会議で取り消されました。発言の内容や経緯についてはさておくとして、これを機会に前からもやもやしていた「発言取消」について考えてみたいと思います。
「発言取消」とは、字のごとく発言されたものを取り消すということで、足立区議会の例では「撤回」とマスコミなどは報じていますが、規則上は「取消」になります。
例えば、都道府県議会の標準会議規則では、第63条で「議員は、その会期中に限り、議会の許可を得て、自己の発言を取り消し、又は議長の許可を得て発言の訂正をすることができる。(以下略)」とされています。「訂正」についてはまた別の話になってくるので、今回はまず「取消」について考えてみます。
手続関係ですが、規則にあるとおり「議会の許可を得て」ですから、本会議で発言を取り消すことを認めてもらわねばなりません。単に演壇で「先日の〇〇という発言は取り消したいと思います」と述べるだけでは取消の効果はありません。なので、足立区議会の例でも、御本人がまず演壇で陳謝し発言を取り消したいと述べた後、議長から発言の取消を許可することを諮り、賛成多数で許可が認められたわけです。
さて、そうして取消が認められるとどうなるかということですが、従来、「発言の取消が認められると、その発言は最初からなかった発言として会議録では扱われる」と教えられてきました。具体的には、取り消された発言は、配付用の会議録にその文言は掲載されず、例えば太線(━)などに置き換えられます。ただし、1冊しかない永久保存の原本には取り消す前の発言も全て記録される形になっています。
例えば、ある議員が「市長はあほやと思います」と発言して、「あほ」が問題となって取消が認められた場合、原本には「市長はあほやと思います」とそのまま残りますが、配付用の会議録では「市長は━━やと思います」というような形で掲載されることになります。したがって、今回の足立区議会の例でも、配付用の会議録ではその取り消された文言の数だけ━が引かれる形となり、元の発言は見ることができなくなるわけです。
……と、ここまではいいのですが、昨今、これに絡んでいろいろと疑問が湧いてくるわけですね。それはちょっと長い話になるのでまた次回ということで、今回はここまで。