答弁調整の功罪

2023年5月16日の北海道新聞の社説に「道議会新議長 答弁調整の廃止が急務」との記事が載りました。ごく大雑把にまとめると、議会での一般質問では事前の答弁調整などせずに、丁々発止の議論をしてくれということだと思います。

こういう意見はよく聞きます。私も、そう思わないでもありません。議員と執行部で事前に完璧な打合せができて、本会議場では原稿を朗読するだけといった議会もあるのは事実で、「学芸会」とか「発表会」とか揶揄されたりもします。そういう話を聞くたびに、議会や議員に対して失望する方も多いのではないかと想像します。

しかし、この問題はそう単純ではありません。前述の「丁々発止の議論」というのは、皆さん、どんなイメージなんでしょうか。国会の予算委員会でやっている、ああいう形を望んでいらっしゃるのでしょうか。確かに激しく応酬している場面は見ていて面白いですが、議会の一般質問というのは決してショーじゃないんですよね。

「ノーガードでやれ」と言う方もいらっしゃいますが、本当にノーガードでやったらどうなるでしょう? 議員が何を質問するか分からないと、答えるほうは大変です。あらゆるデータが全て手元にないと的確な答えができません。ChatGPTが代わりに答えてくれるならいいですが、生身の人間が答えるのですから、事前にどんな質問が来るのかある程度の予想ができていないと、「すぐには答えられません」とか「手元に資料がありません」とか、そんな答えばかりになってしまいます。

もちろん、首長の政治姿勢とか、そういう大きなことなら、ガチンコでやっても、まともな首長ならある程度は答えられるでしょう。しかし、1つの事業の具体的なことについて突然質問されて、所管の部長などがきれいに答えるのは至難のわざです。個人的な見解なら幾らでも答えられるでしょうが、本会議で答弁をするときは、その地方公共団体を代表して答えるわけですから、思い込みや間違いがあってはいけません。できもしないことを「進めます」なんて言えないわけですね。なので、細かい事項の確認は、質疑か委員会の場でやればいいんだと思います。

議員が幾らいい提案をして、首長も「そのとおり」と思っても、例えば、法令では認められないとか、予算の裏付けがないとか、体制を整備しないと無理だとか、いろいろな問題をクリアしないと「進めます」とか「やります」と簡単には言えないわけですね。なので、例えば本会議場で首長から非常に前向きな答弁をもらおうと思ったら、事前に予算や法的な面からの検討とか、そういったところで話がついていないと難しいわけです。その辺の話がついていないと、誰もが認める幾らすばらしい提案であっても、その場では「研究してまいります」ぐらいの答弁しか出てこないわけです。

議会というのは、住民の幸せの実現に向けて、首長と議員が「協力」して、よりよき方向を定めていく場所です。激しい言い合いをして喧嘩別れになってよしという場ではありません。地域全体の課題について、首長の考えを聞き、同意できるところは同意し、考え方が違うところは少し突っ込んでその相違点を探り、「少しでも一致できるところを見つけて実現につなげていく」、そんな議論をしてほしいと思います。細かな数字の確認などは文書質問でも十分じゃないかと思うので、ある程度の大きさの話をしてほしいですね。

一般質問は、議員に与えられた大事な権利です。今の時代、全世界にネット中継されている公開の場で、まさに衆人環視の状態で首長に直接質問できて、その場で直接答えをもらえるという、ものすごい権利なのですから、誰かに書いてもらった原稿を適当に読んで終わりというのは論外ですね。もちろん、自分の主義主張をぶつけて喧嘩して終わりというのでもいけません。最初はある程度打合せのできた大きな問題から、次第に核心部分に迫っていき、首長から一歩進んだ言質を取る、そんな質問を聞きたいなと思いますが……。


この「公務員のための議会対策」という本は、Kindle版でしか読めないようですが、一般質問というものについて、その背景や類型的な考察など、とても面白い内容になっていると思います。「公務員のための」とありますが、一般質問というものについて、理想論ではなく、その実像がよく分かるのではないかと思います。答弁する側はもちろんですが、質問する側の人にもお勧めの一冊です。ご参考までに。