議会の速記者について②

国会はもちろん、全国の都道府県議会や市議会などで速記者が活躍していた1960年代、前回述べたように、録音という技術が世の中に広がり始めます。最初はオープンリールという大きなテープを用いたものでしたが、1970年代になると小さなカセット型のテープが登場して、録音機もぐっと小型になり、一気に普及が始まります。

このとき、速記界で大きな話題となったのが「速録戦争」というもので、要は、「録音という技術ができたのだから、速記なんかもう要らんのじゃないか」ということで、激しい議論となりました。私などはもっと協力し合えないのかと思ったものですが、残念ながら、速記者は録音の駄目なところを、録記者(録音だけを使って会議録などを作成する人たちのことをそう呼んでいました)側は速記の弱点を攻め合う形になってしまったわけです。

まあ、そういう時期がしばらく続きますが、その後、時は流れてどうなったかというと、速記者は録音を最高のパートナーとして使いこなすようになりました。地方の各議会では、もちろん録音設備はどんどん普及していきましたが、だからといってすぐに速記者をお払い箱にするというようなこともあまりなかったのではないかと思います。

前にも述べたように、地方公共団体の中で最も重要な会議を記録するのに、速記と録音という2つの技術があって、それぞれ単独で使うのと、その2つを同時に使うのでは、どちらがより安全・確実に記録できるかというと、答えは明らかですね。

速記の強みは、人の耳で聞き分けるので、例えば、同時発言があっても特定の話者の音だけを聞いて記録するとか、マイクのスイッチが入っていない突然の議事進行や不規則発言でも記録できる、また、身振り手振りなどを視覚的に捉えて記録できる、といったことが挙げられます。さらに、書き取った速記符号は、本を読む感じでぱらぱらとすぐ読み返して確認できるという利点もあります。

反面、弱点としては、やはり人間のことなので、長時間連続になると、疲労もたまりますし、用便などの問題も出てきます。突然体調が悪くなるといったことも考えられます。また、聴衆を無視したような超高速での発言や数字や横文字の高速での羅列などが続くと、さすがに書き切れない場合もあります。もっとも、速記者を複数人配置すれば対処できますが……。

私が経験したことで言うと、風邪気味で鼻水が止まらないときなどは難儀しましたね。議場の一番目立つところに座っていますから、大きな音で鼻をかむこともできません。あと、演壇からも直近の位置なので、発言者のいろいろなにおいが直撃して、書いていると気になったりもします。たまに唾なども飛んできたりしますしね。

対して録音のほうの長短ですが…………これは次回に回します。