議会の速記者について③

では、録音についてです。

まず、長所のほうですが、何といっても、機械なので、疲れを知りません。もちろん、初期の録音はテープでしたので、録音できる時間が限られているという弱点はありますが、2台をリレーさせると長時間の録音にも対応できました。

また、全て音として捉えるので、聞いている人が話の中身が分からないくらいの早口でしゃべられても、全てそのまま記録できます。後で聞いてちゃんと文章として捉えられるかどうかは別として、とにかく音としては完全に記録できるわけです。

反面、弱点のほうですが、全て音として捉えるので、同時発言があっても聞き分けて記録することはできません。声の大きいほうの音が大きく記録されます。また、マイクのスイッチが入っていなかったり、マイクから遠い発言は記録されません。突然、議事進行の発言が起こっても、マイクのスイッチを入れるのが遅れたり、近くにマイクがないと、きれいな録音はできません。

さらに、ちゃんと録音できていると思っても、機械や配線のトラブルで全く録音されていなかったということもあり得ます。もちろん何台も同時に録音していればある程度は防げますが、実際に録音に失敗したという例はよく聞きました。カセットテープの時代、録音した音をすぐ再生させながらちゃんと録音できるか確認できる「3ヘッド」の録音機がありましたが、そういう機能がないと「スイッチを入れたつもりなのに……」ということがあるわけですね。

それぞれ単独だと弱点もある速記と録音ですが、2つ同時に活用することで互いの弱点をカバーできます。実際、録音が全く入っていなかったが速記していたので問題はなかったとか、逆に、途中で体調が悪くなって十分速記できなかったけど録音があって助かったという事例は結構あります。

ということで、議会での記録方法のベストは速記と録音の併用です。本当は今もそうすべきだと私は思っていますが、速記者を確保することが難しいので、録音だけとならざるを得ないところも増えています。確かに、速記者1人雇うより、録音機1台のほうが安くつきますが、速記者が議会で果たす役割をトータルで考えると、そんな単純な話でもないとは思うのですが……。

ということで、その後、速記者は定年退職などで減っていきます。民間の速記会社でも、速記者を養成しているところが激減したので、十分な数を確保できません。そこへ役所の入札という「価格のみの競争」が行われた結果、安価な録音による会議録作成の方向にどんどんシフトしていっています。民間の業者の中には「安かろう悪かろう」の類いもあって、原稿のチェックに苦労している議会事務局も多いと思いますが、そんな中で、今度は音声認識というものが登場します。

ということで、以後は次回に。